2つめに「もの(施設・作品)づくり」です。
芸術村には常に芸術作品制作としてのものづくりの実態が伴います。作品の善し悪しは、その地域の思想や取り組みまで左右します。たくさんの作品を野外や街角に設置すれば芸術村になるというわけではありません。
芸術村は、4つの大きなコンセプトから構成されています。ひとつが「アート・ビレッジ(芸術家コミュニティ)」。これは住まう、つくるという機能です。今では多くの芸術家が住んでくれていますので町全体にアトリエができ、ビレッジが育ちつつあると思います。
また、現在は東京に移転してしまいましたが、オーストリア連邦の教育芸術文化省の肝いりで、1993年、篠原地区にオーストリア・アーティスト・イン・レジデンスの「オーストリア芸術の家」がオープンしました。3ヶ月から半年をサイクルに、常時2~3人の海外の作家が活動していました。ときどき、個展や音楽祭も開催され、小さな国際交流が行なわれていました。
ふたつめのコンセプトは「レジャー・ファクトリー(体験工房・美術教室)」の遊ぶ、体験する機能です。1995年10月21日にオープンした藤野芸術の家がこの役割を担う施設です。施設のオープンを皮切りに芸術村は推進の第2段階のステージを迎えることになりました。11月5日までの2週間に全町で50のイベントが開催され、延べ4万人の来場者がありました。これは人口の約4倍です。
そのほかに、オープンハウスとして芸術家のアトリエを解放したギャラリーが5カ所。また、民間施設としては和竿美術館と人形美術館もオープンしました。
3つめのコンセプトが「ログリゾート」です。これはくつろぐ、交換するといった、滞在型の界隈施設のことです。さきほどお話ししたオープンハウスもそのひとつです。それから観光農園や農業小学校も活動を展開しました。町がふるさと創生資金で温泉を掘り当て、新たな界隈施設として町民や一般に開放されています。
最後のコンセプトが「マイスター・カレッジ(芸術職人養成所)」の教える・学ぶ機能です。マイスター・カレッジとは熟練工、つまり親方のことです。ドイツのマイスター制度を参考にしました。親方を養成する施設ですからそう簡単にはいきません。そこで、マイスター・カレッジの構想実現のために、そこではどういう活動が行われ、どういう人材が必要なのか、先取りする形でイベントで実験することにしました。屋外彫刻には、ときには大きな作品も要求されます。そのため、試験的に行うにも大きな工場と熟練した職人さんが必要でした。
その広い制作スペースと職人さんを提供してくださったのが、さきほどもお話した、京浜工業地帯のNKK(日本鋼管)です。芸術家が描いた、複雑なスケッチを作品に仕上げるのですから、作業は単純ではありません。ハイテクを駆使し、曲げや溶接の方法が検討され、1ヶ月かけて作品が完成しました。本当にご苦労が多かったと聞いています。しかしその甲斐あって、芸術家と職人が何時間も議論し、解決策を見出し、お互いが満足いくものができました。マイスター・カレッジは実現に至りませんでしたが、高度の技巧性、芸術性を持った手工芸職人を養成する学校として、その必要性が求められます。