そう言われて思い出すのは、私自身のことです。
フラリと訪れた「こもりく」の空気感に魅了されて移住を決めた私が、きのぷらに混ぜてもらった当時はまだ20代。きのぷらの中でもいちばん若く、みんなに大層かわいがってもらっていました。
当時はライターの仕事もやめていたので、アーティストでもクリエイターでもありません。それでも「若いのによくここを見つけたね!」と大歓迎され、夜な夜な繰り返されるくだらない話の数々に心から笑い、そこから生まれるクリエイティブな発想と、動けばすぐ形になる行動力と技術力にワクワクの連続でした。
そんな私が「いつか藤野のミニコミをつくりたい」とこぼしたときにみんなが応援してくれ、資金的な援助までしてもらったのです。このミニコミがきっかけでいくつか仕事がもらえるようになり、再びライターとして独立することができました。今こうしてこの原稿を書いているのも、このとき、実績がなかった私が「やりたい」と言ったことをちっともバカにせず、きのぷらのみんなが背中を押してくれたからにほかなりません。
こんなふうに、藤野にはアクションを起こす人を応援する気運があり、そのためか、誰もが行動を起こすことを躊躇わないところがあります。
昔、歌を歌っていた人がまた歌うようになり、子どもの頃に絵を描くのが好きだった人がまた描くようになる。30代や40代で楽器を始める人がいたり、お芝居に初挑戦する人もいます。趣味でつくっていたものがいつのまにか売り物になって作家になるという人もいますし、直接的にアートに関わりがなくても、人生観が変わって転職したり、起業してしまうという人もいるのです。
芸術もクリエイティブもプロフェッショナルだけのものじゃない。誰もがアートの当事者になれるのだということを、藤野というまちは証明しています。