市町村合併によって、町役場は規模が縮小したまちづくりセンターとなり、行政の影はほとんどなくなってしまいました。以前のような潤沢な支援は期待できず、気軽に相談できる、顔の見える職員もいなくなりました。合併当時、メッセージ事業の予算が果たして残してもらえるのかどうか、関係者が戦々恐々としていたことを思い出します。住民自治は遠のいたかに見えました。
しかし、すでに何十年も市民参加を続けてきた藤野の住民が、何もせず諦めるわけはありませんでした。彼らはこの地域で楽しく心地よく暮らしていくために必要なことや面白いことを考え、自分たちで実践していったのです。
その最たるものは「トランジションタウン運動」でしょうか。
トランジションタウンは、イギリス南部のトットネスという小さなまちで始まり、全世界へ広がった市民運動です。持続可能な社会へ移行していくために、市民が自発的に地域の暮らしを考え、行動し、意識をもって日々の暮らし方を変えていこうとする運動で、そのために何をやるのかは明確に決められていません。「市民がやりたいと思ったことを自発的にやっていく」というのが特徴です。
そして2009年、日本で初めてトランジションタウン宣言をした藤野では「地域通貨よろづ屋」や「藤野電力」など、全国的に知られる活動が誕生しました。ひとりひとりの自発的な行動によって、地域の暮らしを豊かにする取り組みがたくさん生まれていったのです。